名古屋地方裁判所 昭和29年(レ)3号 判決
控訴人において陳述したものと看做される控訴状の記載によれば控訴人は主文第一、三項同旨及び被控訴人の請求を棄却するとの判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴人において被控訴人の主張事実を全部否認すると述べたほかは原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
そこで職権を以て調査するに、取寄にかかる原告若林仁三郎対被告三輪通輔間の名古屋簡易裁判所昭和二十七年(ハ)第六号売掛代金請求事件に関する一件記録及び方式及び趣旨により真正に成立したと認めることができる甲第三号証によれば、本件被控訴人は右訴訟事件において、かつて原告として昭和二十七年一月二十五日訴外三輪通輔を被告とし同人に対する同二十三年六月十四日より同月十九日に至る間における「すだれ」の売買に基いて生じた代金債権合計金二万九千五百四十五円の債権者たる訴外可知義郎より同二十六年十二月五日これが債権を譲りうけたことを主張し右金員の支払を求めて訴を提起したところ、同年四月一日原告たる本件被控訴人勝訴の判決言渡あり、該判決は控訴期間の徒過により確定していること、及び右事件における被告三輪通輔は通名であつて戸籍上は三輪通助と称し戸主であつたが既に昭和九年十月二十一日死亡し、同日嫡孫たる訴外三輪恭正これが代襲により家督相続をなし、更に同人死亡と同時に同十六年十二月二十二日同人の嫡母の後夫たる本件控訴人三輪徳得門これが家督相続をなしたことがそれぞれ認められると共に右訴訟事件においては原告たる被控訴人は既に右徳得門の先々代通助死亡後の取引に関し而かも右死者たる通助を被告と表示して訴を提起したものに外ならないけれども右徳得門はこれが訴の提起に関し該訴状の送達をうけたばかりでなく自分名義の答弁書を提出する等実質的にこれが応訴をなし右本案裁判所も被告不出頭のため右答弁書を陳述したものと看做して手続を進行しついに終局判決をするに至つたものである事情が窺われるから、右訴訟事件における原告たる本件被控訴人はたんに被告となすべき者の表示を誤つたものであつて実質上の被告は本件控訴人たる三輪徳得門に外ならないのであるから裁判所は訴訟手続中よろしく右被告の表示を真実の被告名に訂正せしめて該手続を進めることができたのであるがたとえ、右事実を看過してこれをなさず、判決の言渡をなしたとしても該判決は当然右徳得門に対してもその効力を及ぼすものと解すべきである。然るに本件控訴事件において被控訴人は前記可知義郎の昭和二十三年六月十四日より同月十九日に至る間における控訴人に対する「すだれ」売掛代金債権合計金二万九千五百四十五円の譲受人たることを主張し同人に対し其の内金一万円の支払を求めることを以て本訴請求をなすものであつて、右金二万九千五百四十五円全額に関し既に確定判決の存在する前記訴訟事件とは全く同一の事実上、法律上の主張に基く請求であることは明らかであるから被控訴人の本訴請求は右確定判決の既判力の効力をうけるものであつて特段の再訴の必要があれば格別この点について何等の主張も立証もない本件において被控訴人は控訴人に対し重ねてこれが訴を提起することは許されないものと謂わなければならない。
かくて被控訴人の本訴請求はこれが本案の審理に入るに先立ち訴の要件を欠く不適法のものとしてこれを却下すべきであるのに原審はたやすくこれが本案の審理を遂げてその本訴請求を認容したのは判決手続に法律の違背があることになるので当然原判決は取消を免れ難く、かつ右訴の要件の欠缺は蓋し到底補正し難いものであるというべきであるから原審裁判所に差戻すことなく直ちに被控訴人の本件訴を不適法として却下することにし訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十六条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 木戸和喜男 松本重美 山田義光)